大山哲のこの一冊!無痛
こんにちは。大山哲が選ぶ今日の一冊は無痛です。2015年10月よりドラマとして放送されたので知っている方も多いかもしれませんね。
無痛は刑法・第39条(心神喪失及び心神耗弱)をテーマに据えた作品です。
テーマこそ難しそうにみえるかもしれませんが、専門的知識などなくてもとても読みやすい一作です。
この無痛の作者・久坂部羊氏は実際に医学部を卒業し附属病院で外科、麻酔科を研修し、医師として外科として働いた経験があります。
その経験をいかし、彼の作品にはよりリアルな病棟が描かれていきます。
また、実際に経験した人間だからこそ、その現場をまず見たことはないであろう我々、読者へも丁寧な文章で紙の向こう側の世界を伝えてくれます。
特に手術シーンの描写は他の医療をテーマにした作品にはない深くリアルな表現に圧倒されるばかりです。
無痛の主人公は「見ただけでその人の病気を見つけられる」という能力の持ち主です。
また、犯罪のことも「人に罪を犯させる病」として見分けることができます。
そんな主人公と彼を頼るヒロインと、彼を勧誘する大手病院の三者の間で様々な出来事がどんどん線を結びつつ物語が作り上げられていきます。
この無痛なのですが、非常によんでいて心が痛む、文字通り本当に心がチクっとするような感覚に襲われる描写が何度も登場します。
医師ならではの人間についてのリアルな解釈、現代社会の暗闇、そこで生きる変人と言っても違いのないキャラクターたち…とても刺激的な医療ミステリーです。
もっとも、医療ミステリーというカテゴリーに属するもののその残酷さを感じさせる文章から発表直後「ホラーなのでは?」という意見もあったほどなのですが。
無痛という題名なのに読者には確かな痛みが走る、そんな不思議で刺激的な一作。
もし、勇気のある方は手にとってこの痛みに立ち向かってみてはいかがでしょうか。
その先にきっと本当の「痛み」が見えてくるでしょう。