大山哲と本。

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大山哲のこの一冊!カエルの楽園

こんにちは。大山哲が選ぶ今日の一冊はカエルの楽園です。

 

カエルの楽園:Amazon

 

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作者の百田 尚樹さんが日本という国、そして日本人を寓話になぞらえて描いたこの作品は、私達に数々の問題定義を届けてくれます。
例えばダイレクトに「平和とは」と目や耳にすれば、思わず構えてしまったり、何とかスルーしようとしがちです。
ですがカエルの世界というフィルターを通じての問い掛けですので、肩肘張らず興味深く、描かれた物語の世界に飛び込んで行けます。


大人社会視点の難解な表現も殆ど見られず、中学生以上であれば無理無く一読出来る文体も魅力です。

ちなみに主人公はアマガエルのソクラテスとロベルトの2人ならぬ2匹で、彼等は安住の地を求めての旅の果てに辿り着いたのがナパージュと呼ばれる国。
間違いなく世界一平和なこの国こそ自分達の安住の地と確認するも、この国の先住民のツチガエル達が共通して抱く「ある考え」に疑問を覚え始めます。
『三戒』と称される、2匹にとっては奇妙極まりないこの戒律に衝撃を受けつつも、その裏に存在する真実を知るに至り…。

次々と登場する個性的なカエルのキャラクター設定が、現代の日本に共存する多種多様な価値観を有する「日本人内の人種」を比喩しており、風刺色が強い作品ですが、いわゆる嫌味は全く感じません。
物語の鍵を握る、ナパージュで暮らす全てのカエルが疑い無く信じ実践している『三戒』に謳われる3つの戒律の「カエルを信じろ」「カエルと争うな」「争うための力を持つな」にもニヤリとさせられました。
全体を通じて適度な辛口と度が過ぎぬ比喩表現で語り進められるストーリー展開の中、油断しながら読み進めていた私が一撃を喰らわされたのが、次のシーンでした。
『三戒』の存在を通じ、表面上の平和だけを享受され、歌と踊りが大好きな若いメスガエルのローラの最期の描写がそれで、何とウシガエルに四肢を千切られ転がされてしまうのです。
果たして作者はローラを現代のどんなジャンルの日本人に見立てて登場させたのか、この辺りは読者によって意見が分かれるところですが、政治に無関心の若い女性である事は間違い無さそうです。

 

活字離れ、書籍離れを嘆く声が大きさを増して久しい今日、インターネットの影響も大きく、私達が日常求める日本語表現は、より簡潔端的かつ直接的に変化を見せていると言われています。
本作品のように架空の世界に実社会をスライドさせて描かれる物語に関しては、既に「苦手」「理解出来ない」と腰を退く方々が、潜在的に増えて来ている感も否めず、私、大山哲もそのような声を多数耳にしています。
そうした方々にもぜひ、喰わず嫌いならぬ読まず苦手だった小説の世界に触れていただきたい限りです。
カエルの楽園は読書の奥深い魅力と、物語の行間に詰まった数多くのメッセージを感じていただくべく、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

 

また更新いたします。