大山哲と本。

大山哲。本が大好きです。オススメの本や読みやすい本を紹介していきます。

大山哲の今日の一冊!江戸を造った男

こんにちは。大山哲が選ぶ今日の一冊は江戸を造った男です。

 

江戸を造った男:Amazon

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高校生直木賞受賞作家として注目を集めた伊東 潤さんがデビュー10周年記念作として書き下ろした渾身の作品です。


一般的には長編時代小説として紹介されていますが、史実に基づく主人公の波乱万丈な人生を描くストーリーは、ある意味ドキュメンタリ―的な側面も強い、インパクト抜群の一冊です。
乱読を公言する私ですが、正直こうしたジャンルにはあまり食指を伸ばす事はありませんでした。
それでも作者が描く臨場感と説得力に満ちた世界観に、読み始めて程無く惹き込まれてしまいました。
大山哲に新たな世界の扉を開いてくれた、個人的にも忘れられない一冊です。

舞台は江戸、主人公は伊勢の貧しい農家に生まれた七兵衛。


若くして単身江戸に出て苦労を重ね、ようやく材木商を営み、明暦3年の江戸の大火に際し「機を見て敏」に材木を買い占め巨万の富を築きます。
こうして豊富な軍資金を手にした七兵衛は、全国各地の鉱山の採掘のみならず、列島各所の航路の開設、治水事業を次々と成し遂げて行きます。
現代社会を生きる私達からすれば、過去のサクセスストーリーの焼き直し的に映ってしまうリスクが否めぬ題材ですが、作者の絶妙の筆加減がそうした拒絶反応を抱かせません。
ちなみに主人公の七兵衛の何は馴染み無くとも、後の「河村瑞賢」と目や耳にすれば、誰もが文中描かれる数々の偉業に納得です。

勿論時を経て語り継がれる、先人が為し得た諸々の陰には、筆舌に尽くし難い苦難が避けられません。
「江戸を造った」なるタイトルに嘘偽りや誇張が見当たらぬ主人公の人生模様を、私は正直「妬み」でこそありませんが、何らかのジェラシーらしき感情を覚えつつ、最後まで読み切りました。
類稀なる瞬時の判断力、勝負どころに於ける大胆な行動力、窮地に際しての強靭な精神力など、幼い日々を貧困の農家で過ごしたルーツだけに、その卓越した人間力の源を求める訳には行きませんでした。

今日それぞれが生きる世界で、誰もがサクセスを夢見て当然ですが、同時に飽食かつ世界一豊かで平和と語られるこの国の恵まれた環境下、誰もが自らに賭ける生き方を躊躇しがちです。
かく言う私、大山哲もまた、心の奥底で「何も生じなければ褒められずとも失敗しない」なる価値観を有している自分を、悲しいかな否定出来ずにいます。
この作品を世に送り出すに際し、作者は物語の行間に、今ではもしかすれば陳腐とも映り兼ねない「パイオニア精神の大切さ」を忍ばせておられるのかも知れません。


実社会の最前線で日々闘い続けておられる方々の、通勤途上の一冊として、スマホ画面に替えてご一読をお薦めしたい作品です。