大山哲の今日の一冊!のぼうの城
こんにちは。
大山哲が選ぶ今日の一冊はのぼうの城です。
この作品を大山哲流に一言でご紹介するなら「作者の和田竜渾身の戦国エンターテイメント」です。
ちなみに舞台は豊臣秀吉が天下統一を目指し、関東一円の支配者である反勢力の北乗氏成敗に動き出そうとする天正時代です。
豊臣の侵攻に対抗すべく、北条氏政は関東各地の城主に籠城するように通達を出すところから物語が展開して行きます。
そうした北条側の城の1つの忍城の城主である成田氏長は、表向きこそ北条側なれど、既に豊臣側に寝返っており、「忍城を開城せよ」との指示を残し、北条氏本丸の小田原城へと向かいます。
豊臣秀吉、石田三成など、歴史への興味が薄い方々でも、その名と人物像ぐらいはご存知の登場人物達が、それぞれの立場と複雑な人間関係、そして思惑の中でみせる攻防は、現代の私達の職場との共通点に溢れているように思えます。
まだスマホや携帯どころか、通信機器すら存在しなかった当時、全ての指示伝達は「人から人」であり、現代を生きる私達とは大きく違う時間感覚や人間同士の信頼関係など、色々と考えさせられる場面に溢れています。
どうしても「機械が記録しているのだから間違いない」と、自分達の記憶力や相手を信じる心より、テクニカルな機器に頼ってしまう現代人の私達が果たして、戦国時代で意志を統一した戦が出来るのだろうかと考えれば、何やら反省させられる事しきりでした。
人間である以上、誰もが陥る疑心暗鬼などの負の感情と、それらに果たしてどう向き合うべきなのかなど、登場人物の心象風景も見事に描かれており、傍観者というより、自身が戦に参加している1人の兵隊として読み進められました。
基本的にはフィクションのカテゴリ内の作品ですが、実在した人物がリアルに描かれていますので、もしかすれば全てが実話だったのではと錯覚させられる程の説得力に満ちています。
私自身、途中で区切りを着けて本を置く事が出来ませんでした。
歴史物が苦手だと語られる方々の中には、登場人物が多くて複雑過ぎて、シチュエーションが理解出来ずに疲れてしまう、そんな理由を声にされているみたいですが、この作品ではそうした心配は無用でしょう。
豊臣側と北条側の一進一体の攻防の中、確かに大勢の登場人物が描かれていますが、自然と読み手である私達の頭の中にインプットされる文体は、流石は和田竜氏だと感心させられるばかりです。
この作品との出会いをキッカケに、歴史物や戦国時代に興味を抱かれる可能性は十分以上だとご紹介出来る、幅広い方々にオススメの一冊です。