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大山哲と本。

大山哲。本が大好きです。オススメの本や読みやすい本を紹介していきます。

大山哲のこの一冊!スクラップ・アンド・ビルド

男性作家

こんにちは。大山哲が選ぶ今日の一冊はスクラップ・アンド・ビルドです。


この本は、2015年の芥川賞受賞作です。4回目の候補で念願の受賞となりました。当時はお笑い芸人のピース又吉さんの「火花」がいろんな場所で取り上げられていましたが、今では作者の羽田さんもテレビで活躍しています。


スクラップ・アンド・ビルドの元々の意味は老朽化した設備を廃棄して能率の高い新しい設備に替えることです。


どんなストーリーかと期待しながらページをめくりました。


主人公は資格試験のための勉強をしながら転職活動をしている28歳の健斗で、母と87歳の介護の必要な祖父と同居しています。「もう死んだ方がよか」というのが祖父の口癖です。健斗も母もそんな祖父に嫌気がさしていますが、施設にも空きがありません。

健斗は筋トレに精を出して体を鍛えるようになります。祖父に対しては「死んだ方がよか」という希望を叶えるため、どんな些細な事も親身に手伝うようになるのです。傍から見たら親切に見えますが、健斗にとっては祖父を弱らせるための作戦なのです。逆に自分の体はどんどん逞しくなっていきます。


読み終わった最初の感想は、読みやすく分かりやすかったことです。さすがに芥川賞作家の文章は無駄がない印象を受けました。


祖父の弱っていく姿を見ながら自分を鍛え、最終的には転職も成功させる主人公の心の変化や、「死んだ方が良い」と言いながらも生にしがみついているように見える祖父との関係の不思議さを感じました。

若い肉体を持つ主人公は皮肉にも祖父の存在によって自分をどんどん「ビルド」していきます。

かと言って、祖父も完全な「スクラップ」にはなりきれず、もしかしたら家族の前では介助や介護が必要な演技をしているのではないかと疑うようなシーンもちらりと出てきます。

家族の前では卑屈になりながらも、何かを隠している老人というイメージが頭から離れませんでした。
高齢者が自らの体の機能を失わないためには、多少辛くても自分で身の回りのことをするべきであり、それを過剰に手伝うのはおせっかいであって、優しさではないと考えさせられる場面もあります。

それは高齢者や要介護者に限ったことではなく、健常者も他人をあてにせずに自分の人生を「ビルド」していかなければならないのではないか、この作品を読んでそう感じました。
気づくとあっという間に読み終えてました。

スクラップ・アンド・ビルドの意味が、主人公とその周囲の人々を通して伝わったように思います。