大山哲と本。

大山哲。本が大好きです。オススメの本や読みやすい本を紹介していきます。

大山哲の今日の一冊!すべてがFになる

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すべてがFになる:Amazon

 

こんにちは。

大山哲が選ぶ今日の一冊はすべてがFになるです。

 

森博嗣氏作が描く密室殺人トリックの推理小説で、ある意味非日常的な舞台設定と物語の展開が、非日常空間へと私達読者を誘ってくれる、ズバリ大変面白い作品だとご紹介出来ます。

 

主要キャストの1人の真賀田四季は、かつて両親を殺害するも多重人格を理由に無罪判決を受け、以来真賀田研究所の地下に閉じこもって新型プログラムの研究に没頭しています。
そんな彼を訪ねた西之園家の令嬢の大学1年生の西之園萌絵は、実家の権力でテレビ画面越しにテレビ画面越しの会話に漕ぎつけます。
この事実を羨ましがった大学助教授の犀川創平を伴い、再び研究所を訪れてみたところ、天才プログラマーの真賀田は完全セキュリティが行き届いた研究室内で殺されていました。
ここから密室殺人トリックのストーリーが展開して行きます。

 

こうしたジャンルの推理小説を楽しむ上では、やはり読者の想像力が求められます。
とりわけ研究所など、科学のジャンルの風景描写を読んで、どのような光景を思い描くのか、人それぞれ捉える世界観が大きく異なるかと思われます。
アニメで見た記憶の中の研究所は、その作品が描かれた時期によって、あるいは幼い頃に見た、特撮ヒーロー実写版の中のそれらは正直、かなり時代錯誤感が否めません。
この作品ではリアルタイム目線で、さまざまなシステムが描かれていますので、こうしたジャンルにこれまで接点が無かった方々にとっては、イメージが掴み辛いかも知れません。
対してこうしたテクニカルな世界を舞台にした作品、トリックを暴くストーリー展開のワクワク感が大好きな方々にとっては、ご自身が名探偵になった感覚で思いっきり没頭いただける作品だと思います。

 

難事件の解決の糸口が見当たらず、事件が迷宮入りかと思わせておいての後半、ある事実をキッカケに事態は一気に動き始めます。
「そう来るか」と心地良く私達の裏をかくストーリー展開の醍醐味は、思わずニヤリとさせられるに違いありません。
ここからラストまでのスピード感と高揚感は、流石は森氏だと、大山哲は完全に「1本取られました」的に関心しながら楽しませていただきました。

 

根気良く読み進めていただければ、この作品のタイトルが何を意味しているのか、ラストでのスッキリ解決に辿り着けます。


推理小説にも色々ありますが、間違いなく本格派の作品の1冊、ぜひ気合いを入れて楽しんでください。

大山哲の今日の一冊!塩狩峠

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塩狩峠:Amazon

 

こんにちは。大山哲が選ぶ今日の一冊は塩狩峠です。

 

実話に基づく三浦綾子さん作の小説は後に映画化され、多くの読者や観客の涙を誘った名作として、既にご存知の方も大勢いらっしゃるに違いありません。

 

日本はこれまで幾つもの悲惨な鉄道事故を体験していますが、そうした中で鉄道員が自らの身を挺して暴走列車を止めた、伝説として後世に語り続けられる事故を題材に、この物語は綴られています。


時は明治42年2月28日、場所は北海道の塩狩峠、主人公である鉄道職員の長野雅雄は1人の乗客として、名寄から旭川に向かう途中でした。

そして石狩峠を列車が走行中、何と連結器が外れてしまい、最後部の客車が進行方向とは反対に峠を下り始めてしまいます。
どんどん加速する客車はこのままでは脱線確実と言うその時、乗り合わせていた長野はデッキに飛び出し非常ブレーキで何とか客車を止めようとしますが、完全に止まりません。

長野は客席に向かって僅かに微笑むと、自らの身を車輪とレールの間に投げ打ち、小さな音と同時に客車を完全に停車させたのです。

ちなみに敬虔なクリスチャンでもあった長野は、常に遺書を懐に忍ばせており、奇しくもその時、教会である不思議な出来事が生じていたのでした。

 

列車の運転手や乗務員の不真面目な勤務態度が、インターネットを通じて時折報道されています。スマホ運転、携帯で会話しながらの勤務、果ては運転台に両足を投げ出しての超高速列車の操縦など、正直列車に乗るのが怖いと感じさせられる残念なニュースばかりが記憶に残りがちです。

勿論不幸にもご自身が長野と同じ立場となられた際、同じ行動を選択される職員の方もおられるに違いありませんが、ぜひ今現在鉄道関連のお仕事に従事されている方々にも、一読をオススメと言うよりお願したいのが、私、大山哲の偽らざる気持ちです。

 

単なる感動の実話だけでは済まされない、数々の教えが詰まった作品だと思います。

自らの生命を職責に、あるいは第三者の生命と引き換えに捧げてしまう長野の選択には、当然賛否両論あって当然ですし、あるべきでしょう。乗り合わせた他の乗客に協力を仰ぎ、非常ブレーキを引き続ければ、結果全員助かったかも知れません。
果たして突然極限状態に置かれてしまった時、果たして自分は何が出来るのか、どれだけ冷静に立ち振る舞う事が出来るのか、大きな問い掛けを与えてくれます。


ドキュメント的な作品は何となく苦手とおっしゃる読書家の皆様にも、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
読み返す度に心と眼球の洗浄が叶う、本棚に大切に保管しておきたい作品です。

大山哲の今日の一冊!のぼうの城

のぼうの城:Amazon

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こんにちは。

大山哲が選ぶ今日の一冊はのぼうの城です。

 

この作品を大山哲流に一言でご紹介するなら「作者の和田竜渾身の戦国エンターテイメント」です。


ちなみに舞台は豊臣秀吉が天下統一を目指し、関東一円の支配者である反勢力の北乗氏成敗に動き出そうとする天正時代です。
豊臣の侵攻に対抗すべく、北条氏政は関東各地の城主に籠城するように通達を出すところから物語が展開して行きます。
そうした北条側の城の1つの忍城の城主である成田氏長は、表向きこそ北条側なれど、既に豊臣側に寝返っており、「忍城を開城せよ」との指示を残し、北条氏本丸の小田原城へと向かいます。

 

豊臣秀吉石田三成など、歴史への興味が薄い方々でも、その名と人物像ぐらいはご存知の登場人物達が、それぞれの立場と複雑な人間関係、そして思惑の中でみせる攻防は、現代の私達の職場との共通点に溢れているように思えます。
まだスマホや携帯どころか、通信機器すら存在しなかった当時、全ての指示伝達は「人から人」であり、現代を生きる私達とは大きく違う時間感覚や人間同士の信頼関係など、色々と考えさせられる場面に溢れています。
どうしても「機械が記録しているのだから間違いない」と、自分達の記憶力や相手を信じる心より、テクニカルな機器に頼ってしまう現代人の私達が果たして、戦国時代で意志を統一した戦が出来るのだろうかと考えれば、何やら反省させられる事しきりでした。


人間である以上、誰もが陥る疑心暗鬼などの負の感情と、それらに果たしてどう向き合うべきなのかなど、登場人物の心象風景も見事に描かれており、傍観者というより、自身が戦に参加している1人の兵隊として読み進められました。
基本的にはフィクションのカテゴリ内の作品ですが、実在した人物がリアルに描かれていますので、もしかすれば全てが実話だったのではと錯覚させられる程の説得力に満ちています。


私自身、途中で区切りを着けて本を置く事が出来ませんでした。

歴史物が苦手だと語られる方々の中には、登場人物が多くて複雑過ぎて、シチュエーションが理解出来ずに疲れてしまう、そんな理由を声にされているみたいですが、この作品ではそうした心配は無用でしょう。
豊臣側と北条側の一進一体の攻防の中、確かに大勢の登場人物が描かれていますが、自然と読み手である私達の頭の中にインプットされる文体は、流石は和田竜氏だと感心させられるばかりです。


この作品との出会いをキッカケに、歴史物や戦国時代に興味を抱かれる可能性は十分以上だとご紹介出来る、幅広い方々にオススメの一冊です。

大山哲の今日の一冊!オリンピックの身代金

オリンピックの身代金:Amazon

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こんにちは。

大山哲が選ぶ今日の一冊はオリンピックの身代金です。

 

舞台は1960年代初頭の東京で、奇しくも戦後初の東京五輪開催を控え、高度成長期と称された時代背景が、当時をご記憶の世代の方々には懐かしく思える事でしょう。

作者の竹野内豊氏の絶妙なストーリー展開と描写から、もしかすればノンフィクションではと錯覚させられる程、物語はリアリティ溢れる展開で、私はグイグイと惹き込まれてしまいました。

 

ちなみにストーリーを少しだけご紹介しますと、昭和39年の東京オリンピック開催に際して厳戒態勢下の東京で、よもやの連続爆破事件が発生するところから話が始まります。
しかも爆破されたのが、最初は東京五輪の警備本部幕僚長の自宅、次に警察学校と、単なる事件では無い、いわば官憲への挑戦に他ならなかったのです。
東京五輪開催前に国内情勢がこれでは大問題と、国家は極秘裏の解決を指示する中、今度は「必ずやオリンピックを妨害してみせる」なる脅迫状が届きます。
ここから主人公の捜査一課刑事の落合昌夫と容疑者の攻防が続く、そんな流れが描かれています。

 

また文中「ヒロポン」「プロレタリアート」「学生運動」など、平成世代の読者にはピンと来ないであろう、懐かしい言葉が登場し、リアルタイムを知る方々をタイムスリップの世界に誘ってくれます。
私、大山哲も世代的には当時を知らない世代ですが、漠然と見聞きして自分なりに捉えていた1960年代を、よりリアルに確かめられた気がしています。
当時の若い世代は現代の同世代と比較して、ずっと精神的に大人で行動力にも長けていたと言われますが、なるほどと納得させられる、そんな描写も随所に見られます。
犯罪は全て認める事も許せるハズもありませんが、昨今の陰湿な犯罪と比べた際に、このスケールの大きさをどう感じ取るべきなのか、自問自答させられました。

 

全体を通じて緩急に富んだ展開で、飽きずに一気に読み進んでしまいます。
短編のエッセイなどは読めても、本格派の小説は苦手とおっしゃる方々にも、ぜひ読破にチャレンジいただきたい作品です。
お気に入りのDVDを繰り返し観賞する感覚で、何度でも読み返せるオススメの1冊です。


数年後に2度目の東京オリンピック開催が決まり、21世紀の東京都もそれに向けての整備が進められ、次第に警備も強化されて行く事でしょう。
この作品を知った上で、今後都内で遭遇するさまざまな風景を目にすれば、政府そして警察の警備の裏側や、どのような犯罪を想定しているのかなど、興味深い発見に繋がるかも知れませんね。

大山哲の今日の一冊!名もなき毒

名もなき毒:Amazon

 

こんにちは。

 

大山哲が選ぶ今日の一冊は名もなき毒です。

 

この作品を通じ、作者の宮部みゆきさんが描く世界には、実社会を生きる上で私達が見失いがちな、数多くの教訓が含まれているように思えました。

誰もが少しでも「上に行きたい」「評価されたい」という願望を抱いていて当然です

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し、勿論私、大山哲も同じです。
それを日々の努力や生きる姿勢で勝ち取れば問題ありませんが、例えば経歴詐称など、自分のスタートラインだけをズルして前にずらすような行為を企てる人が、残念ながら後を絶ちません。


また複雑な人間関係は時に、好き嫌いなどアンフェアな感情が渦巻く環境を作り上げてしまいます。
全く仕事が出来ない人間を「お気に入り」なる理由だけで重宝する、一方で目に余る勤務態度を理由に解雇された人間が、不当解雇だと逆恨みから復讐に走ってしまうなど、いずれも私達の身近で現実に生じても不思議ではありません。

 

この物語の登場人物はもしかすれば、私達自身なのかも知れないと、そんなふうに考えさせられました。


名もなき毒というタイトルはおそらく、逆恨みという感情が人間を思わぬ行動へと駆り立ててしまう、何とも恐ろしい現実を指しているのでしょう。
本人には最初は何の悪意も無く、ほんの小さな誤解やボタンの掛け違えが、不満や恨みなどの負の感情をいつしか膨らませ続けてしまうみたいです。

とりわけシチュエーションが似通っている職場や生活環境で生きておられる方々にとっては、背筋が寒くなる場面が随所に出て来るかと思われます。
「もしかしたらあの人も」など、実在の人物に重ね合わせてしまい過ぎては、読書後の皆さんの実生活の人間関係に悪影響が生じ兼ねない、それ程にリアルな状況描写が心に迫る作品です。

 

少し話が横道にズレますが、実は私自身、気の置けない仲間内でお酒が入ると、無意識にこんな台詞を繰り返しているみたいです。
「法律が無かったらこの手で消し去ってやりたいヤツがいる。子供の頃のいじめっ子のA、学生時代のB、それから以前の職場の上司だったC」がお決まりの愚痴だと、周囲を呆れさせていました。
勿論この作品を読んだ後は、口外せぬよう気をつけているつもりですが、酔いが回れば果たして守り切れているかどうか、正直自身はありません。

 

ちなみに同作品を原作にテレビドラマ化されましたが、こちらは同じく宮部さん原作の誰かSomebodyがエピローグ的に用いられています。
主要登場人物の杉村三郎の人となりはこちらの作品で、より深く知る事が出来ます。
合わせて読まれる事で、よりリアルな世界観の中に引き摺り込まれるに違いありません。

大山哲の今日の一冊!謎解きはディナーのあとで

謎解きはディナーのあとで:Amazon

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こんにちは。

大山哲が選ぶ今日の一冊は謎解きはディナーのあとでです。

 

作者の東川篤哉氏さん2011年の本屋大賞受賞作として知られ、映画化やテレビドラマ化され、いずれも大ヒットを記録した事も記憶に新しい、タイトルからご想像いただける通りのミステリー小説です。

 

主人公の影山は世界的に有名な大企業「宝生グループ」の社長の愛娘である麗子の執事兼運転手で、という設定です。
ちなみに細かい話になりますが、社名の「宝生」や社長令嬢の「麗子」なるストレート過ぎるネーミングが私的には素敵に思えました。
そして麗子は実は国立署の新米刑事で、普段はその身分を隠し、あくまで巨大企業の令嬢として振る舞いつつ、難事件をその卓越した推理力で次々と解決して行きます。
完璧な給仕をこなす執事の影山の毒舌は麗子に対しても容赦なく、読み手の私達の方がハラハラする程です。
一方で淡々とエレガントな食事を楽しみつつ、事件の一部始終を影山に淡々と語る麗子。
この2人の奇妙なコントラストと不思議な食事シーンが、物語の「幹」となるシーンとして描かれています。

 

身分を隠した美しい女性刑事というキャラクター設定は、他の数々の作品で用いられています。
ちなみに東京下町の派出所勤務のグラマラスな麗子巡査も、同じく巨大グループの令嬢という設定でしたが、敢えて作者の東川さんが、この辺りをスレスレの匙加減で連想させているのでしょう。

されど決して「パクリだろ」とは言わせぬ、各キャラの人物像が明確に描かれた作品だからこそ、原作だけでなく映画化からテレビドラマ化と、活字離れした大衆にも受け入れられたのだと思います。

 

ここで少し話が逸れますが、非常に発想力が貧しい限りですが、大山哲が原作を読みながら描いた麗子像はズバリ、あの漫画の中の麗子さんでした。
これではとても小説家になどなれるハズもありませんし、だからこそ趣味読書を満喫出来るのでしょう。

刑事モノのミステリーとなれば、何らかのアクティブな展開、すなわち「動」の世界が欠かせないイメージがありますが、この物語はまるでチェスや詰将棋を思わせる一面を持っています。


影山の毒舌に忍ばせた麗子へのメッセージ、そして麗子から影山に冷静沈着に伝えられる情報の中に忍ばせたそれらを、果たして私達がどれだけ読み取り切れるのか、こちらの感性が試される作品です。


だからこそ映画やドラマでこの作品に興味を抱かれた皆さんには、ぜひ原作の世界を堪能していただきたいと思います。

幾度読み返しても楽しめる1冊です。

大山哲の今日の一冊!夜は短し歩けよ乙女

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こんにちは。

大山哲が選ぶ今日の一冊は夜は短し歩けよ乙女です。

 

独特の世界観と表現力で読書ファンに知られる森見登美彦さん作の、ジャンルとしては恋愛小説とファンタジー小説のブレンドとご紹介出来る、不思議だけれどグイグイ惹き込まれる1冊です。

 

主人公の「僕」目線で展開するストーリーですが、お酒が大好きな後輩の女性が気になり、彼女を追いかけて夜の街へ足を運び続ける中、奇妙な人達やさまざまな出来事に遭遇する・・・実は「これだけ」だったりします。
一昔前を舞台にしているので、今なら「ストーカー行為なのでは」「そういう意中の女性への近づき方はチョット」といった、若い世代からの声が聴こえるシーンも見られるかも知れません。
それでも1人の大人の男性が、気になる女性を常に自分の視野の中に確かめていたい「想い」「願い」は不変だと、あらためて感じさせられました。

 

冒頭でも触れた通り、森見さんがチョイスする単語やその用い方は非常に独特で、読み手からすれば正直、好き嫌いが分かれるかと思います。
「意味わかんない」と首を傾げられる方々の一方、ある意味「そんなふうに表現するんだ」的な情景描写に、ニヤリが止まらぬ方々も大勢いらっしゃるに違いありません。
ちなみに私、大山哲も最初は正直とっつきにくい感が否めませんでしたが、程無くこの世界観の面白さに引き摺り込まれて行くのが分かりました。
「クセになる」とご紹介するのがベストマッチではないでしょうか。

 

ちなみに読み終わった後、こんな事をぼんやり考えてしまいました。
男は誰でも好きな女性をグイグイ引っ張って行く存在でありたいところですし、それは私も一緒です。
対してこの物語での「僕」は、お酒が大好きで日々夜の街に繰り出す年下の女性を追い駆け回す事で、何とか彼女との距離が開かぬように一生懸命です。
まだ幼かった頃の長い夏休み、片思いの女の子の姿を確かめたくて、友達に見つからぬよう、自転車で彼女の家の近くを幾度もグルグル走り回った「あの頃」の私もまた、主人公の「僕」だったのでしょう。

 

夜は短し歩けよ乙女」なる一目瞭然のライトな遊び心のタイトルと、その対極的な森見ワールドのギャップを含め、ぜひどっぷりとこの世界に浸っていただきたい作品です。
特に今片思い中でキッカケを掴み切れぬ男性の方々には、心の栄養剤となる1冊でしょう。


やれ個人情報がどうだの、肖像権がこうだのとの価値観が、時に誤って解釈されて声高に叫ばれる今日ですので、くれぐれも追い回し方にはご注意くださいね。

 

大山哲の今日の一冊!白銀ジャック

白銀ジャック:Amazon

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こんにちは。

大山哲が選ぶ今日の一冊は白銀ジャックです。

日本を代表する世界的俳優主演と豪華キャストの映画でも話題を呼んだ、東野圭吾氏ならではの本格派推理小説です。

 

舞台は主人公の倉田玲司の勤務先のスキー場に、ゲレンデの一部を爆破するとの脅迫メールが着信するところからストーリーの幕が上がります。
社長の筧の判断で警察へは通報せず、複数回に分けて届く犯人からの金銭要求に従いつつ、メールの解析作業から少しずつ犯人像を絞り込んで行く流れは、こうした方面に疎い私でもテンションが上がりました。
そして次第に浮かび上がって来た、このゲレンデで過去に生じたある事件、そしてラストで明かされる複雑な背景など、この作品でも東野氏ならではの複雑な展開が、私達読者の目と心を捉えて離しません。

 

推理小説なるジャンルはその総称通り、読者が物語の一言一句をヒントに、以下に結末を推察出来るのか、一方作者はそれをどこまで見事に裏切り、なおかつ読者を納得させるのか、双方の緊張感が不可欠なジャンルだと、私、大山哲は常日頃から捉えています。
ラストのどんでん返しがあまりに突飛過ぎれば、読者からすれば「意味不明な駄作」と映り兼ねず、ありきたり過ぎる結末では語る迄もありません。
何百ページも前に描かれた些細なワンシーンが糸口となり、最後の真相解明に繋がって行くからこそ、私達は「そう来るのか」「見事にヤラれました」なる満足感に包まれると思っています。


東野氏の作品はいずれも、こうした部分で突出した完成度を誇るからこそ、数多くの「東野ファン」を増やし続けているのでしょう。

同作品はスキー場という冬季限定で利益を確保から、経営母体として企業を維持して行かねばならぬ難しさと、レジャー施設故に避けられぬ事故のリスクなど、極めて現実的な着眼点から描かれています。
正直経営者としては素人で、スキーなどアウトドアスポーツとも縁遠い私ですが、この作品をキッカケに、大袈裟で無くこれらの施設を見る目が変わった気がしています。
犯人探しの他にも、読み終えた後に色々と考えさせてくれる作品です。


先に映画をご覧になられた方々のご記憶の中には、スクリーンに展開されたダイナミックな映像が印章に強いかと思いますが、ぜひ今度は原作でストーリーをより深く辿られる事をオススメします。

主人公の倉田の職責に賭ける責任感と、何より1人の人間として諸々に対峙する真摯な姿勢など、ページを読み進めるに連れ、新たな気づきが皆さんを待っているに違いありません。

 

大山哲の今日の一冊!イニシエーション・ラブ

こんにちは。

大山哲が選ぶ今日の一冊はイニシエーション・ラブです。

イニシエーション・ラブ:Amazon

 

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国民的アイドルの方がグループ卒業後に主演した映画化で、若いファン層にも一気にその作品名が周知された事も、記憶に新しいところですが、ここでご紹介するのは原作の小説です。


ちなみに原作は前半と後半に分けて綴られており、映画のストーリーとは違う世界観と時系列で描かれています。

 

舞台は遡る事1980年代後半、主人公の鈴木夕樹が成岡繭子と合コンで初対面する、当時の若者のライフスタイルが懐かしくも鮮やかに蘇る場面から物語の幕が上がります。


その後交際期間を経て卒業から就職で、夕樹は東京赴任となり、2人はいわゆる遠距離恋愛から、夕樹は職場で出会った石丸美弥子と、いわゆる二股に及ぶという、超定番の展開へと続きます。
一定年齢以上の読者各位にとっては「そりゃあまりにベタ過ぎでしょ」的な場面が散りばめられていますが、一方で自身の若かった当時が甘酸っぱく照れくさく蘇り、読み進める事が止められません。


残念ながら自称硬派でモテない学生時代を納得させていた大山哲には、この手の感情の揺れが記憶の中に見当たりませんが、それでも顔相を崩しながら、違和感無く最後まで読み進めました。

 

そしてラストシーンの描写もサラリと読み流そうとしたその時、思わず目を見開いた私は、登場人物名が誤植では無いかと疑うかのように目を見開き、複数回その部分だけを繰り返し確かめました。
「あっぱれ」「ヤラレタ」感が心地良く、完全に1本取られました。


私が果たして何を申し上げたいのか、それはぜひご自身でお確かめください。
ヒントは冒頭、原作は「前半と後半に」とご紹介しましたが、実はこれらは1本の時系列で繋がってはおらず、前半後半が同時進行の物語…ここまでにしておきましょう。

こうした世界観を映画という1つのスクリーンの中で描くのは至難の業で、この作品の最高の「要」となるこのマジックを、やはり描き切る事が叶わなかったみたいです。


ネット上の映画に関する口コミには辛辣な感想が多く、これら口コミで原作に対する負の先入観を抱いてしまわれないかと、正直心配していたりします。


誰が何と言おうと、イニシエーション・ラブは原作に限ると、ここに明言申し上げます。
出演者のファンだからと映画館に足を運ばれ、ガッカリ感を声にされた方々にもぜひ、大山哲に騙されたつもりで、原作をご一読いただければと切に願うばかりです。

大山哲の今日の一冊!空飛ぶタイヤ

こんにちは。大山哲が選ぶ今日の一冊は空飛ぶタイヤです。

空飛ぶタイヤ:Amzon

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直木賞受賞作家の井戸潤氏が描く、とまらない企業の不正にスポットを当てた、果てしなくノンフィクションを感じさせる渾身のフィクション作品です。


まるでニュース番組のドキュメンタリーのようなリアル感と、何より不正に関わる人間模様のおどろおどろしさが時に恐怖感を覚える程の描写で描かれており、私達の感性を鷲掴みにして離しません。

 

ストーリーは極めてシンプルかつお決まりの勧善懲悪の、私達が1番安心満足出来る王道の展開です。
忘れる前にニュースをにぎわす企業不正関連の報道を、私達は「またかよ」と見聞き流してしまいがちですが、そうした現場を部外者にも分かりやすく描く、井戸氏の文章力にも脱帽です。
弱い立場の登場人物や組織に思わず肩入れしてしまったり、逮捕状を手に乗り込む場面の臨場感にドキドキさせられたり、読書ならではの醍醐味を堪能出来ます。
ちなみに私、大山哲は、幼い頃に一生懸命テレビにかじりついて見ていた、一話完結の特撮ヒーロー番組の世界と、どこかしら共通する感覚を覚え、ラストの爽快感が最高でした。

総ページ数が500を越える長編ですが、電車移動の合間なども手放せず、実質足掛け2日で読破しました。
そんな電車の同じ車両には、沢山の年配のスーツ姿の男性が、ある人は吊革に掴まり、別の人は偉そうに大股開きで座席を占拠から高いびきでした。
「この人達も企業不正に関わっているのかも」などと妄想を膨らませてしまいましたが、それだけ真実味を帯びた作品なのでしょう。

 

ちなみに多くの方々の感想も、読み終えた後のスッキリ感、登場人物に思いっきり感情移入してしまったなど、あくまで読者のスタンスから、描かれた世界を作品として楽しまれた事を語る内容が数多く見られました。報道番組では何やら難解な犯罪と取り上げられる話題を、肩肘張らず読み切る事が出来る、極めて完成度の高い作品だと思います。

現実に強大な企業からの圧力に窮しておられる方々にとっては、あまりにリアルで身につまされる場面が散りばめられているかも知れません。
それでも実社会の側面を知る上で、例えば主婦層の方々、企業社会以外の世界で生計を立てておられる方々などに、ぜひご一読をお薦め申し上げます。
日々疲れた身体で帰宅されるご主人が、あるいは実社会デビューからその荒波で闘うご子息など、もしかすれば既に登場人物なのかも知れません。
今この瞬間にも水面下で生じているかも知れぬ企業不正、無縁に越した事はありませんが、その実態を読書を通じて知っておくのもまた、私達にとって決して無意味ではないでしょう。